その八 即身成仏
「即身成仏」(そくしんじょうぶつ)とは、人間が生きたその身体のままで尊き仏になれるという真言宗独自の教えです。
弘仁四年(813)嵯峨天皇(さがてんのう)は南都六宗(なんとろくしゅう)に当時の新宗教である天台宗(てんだいしゅう)にお大師さまの真言宗を加えて各宗のしえの違いを聞かれました。
お大師さま以外の高僧はすべて、成仏には長い年月生まれ変わり死に変わりして修業したのち、無限の未来において可能になると説いたのです。これに対してお大師さまはただひとり
「まず人間は、自分の心を素直にしなければならない。悩みや、怒りに満ちた自分の心のもっと深いところに仏の心があることを知ることができれば、それが悟りである。それは人間の身体と言葉と心を仏の身体と言葉と心にまで高めることのできる真言密教の修行によってのみ可能である。人間が生きた身体そのままで仏になれるとはこのことなのです」
と恵果和尚より授かった教えに基づいて説かれたのでした。
ところが、各宗の高僧は初めて聞く教えに疑問を持ち、宮中では大論争になりました。そこで、お大師さまは手に印を結び、口に真言を唱え、心を集中して仏さまの境地に入ると、身はたちまちにして金色の光明を放つ大日如来のお姿となられ「即身成仏」をただちにお示しになったのです。
天皇をはじめ各宗の高僧たちは、このお姿を見て壇を下って庭に下りてお大師さまを礼拝されたのでした。

次頁へ

前頁へ